永遠の青
「おかえりなさいませ、愛之介様。奥様は坊ちゃんとご友人宅に招かれ外出されています。夕食は、そのご友人と一緒にと言いつかっております」
屋敷に着くなり、出迎えた執事が報告する。
「聞いている」
明日の予定がキャンセルになったため、急遽予定を一日前倒しての帰宅になった。妻も急なスケジュールの変更は、難しかったのだろう。
「伯母様方は?」
「御三方とも通院日です。本日はそのまま、ご自宅でゆっくりされるとのことです」
「そうか」
自室のデスクの引き出しに封筒とメモが添えられていた。
——署名とハンコお願いね♡
東京では鬱陶しい雨が続く梅雨真っ盛りだが、ここ沖縄の梅雨はすでに明けている。しかし強い湿気を含んだ空気が女の体温のような生ぬるさで肌にまとわりつき、不快指数は亜熱帯の土地らしく高い。
窓の外に目をやれば、白く霞んだ青空が広がっていた。大気に水蒸気を多く含むこの地では、空気の澄んだ寒冷地と違い、抜けるような深く濃い青空を望むことはできない。
雨が降ってさえいなければ構わない。
「忠、クレイジーロックへ行く。車を回してくれ」
「かしこまりました」
忠は、どのような用事でしょうか、などと余計なことは訊いてこない。淡々とこちらの要望に従う、痒い所に手が届く有能な秘書であることは認めよう。とはいえ少々やり過ぎなところもあり、それはそれで、こちらの思考を読まれているようで面白くない。
もっとも昔からそういう男だった。何も変わらなかったのは、この男だけなのかもしれない。三人の伯母たちも、寄る年波には勝てず、気弱な言動が増えてきた。
神道家の当主は自分だ。もう誰にも口出しはさせない。
順風満帆だった。スキャンダルとは無縁。新道愛之介のイメージは清廉潔白。政治家としての地位は安泰。愛する妻と可愛い盛りの二歳になったばかりの息子。傍から見れば自分は、何もかもを手に入れた男に見えるだろう。
そんな羨望の眼差しを向けられれば向けられるほど、じわじわと精神的に、愛之介は疲弊していった。
誰にも吐露できない心の穴を空疎な笑みで覆い隠し、忙しくも穏やかで幸せな日々が、ただ流れていくだけだった。
Sは、もう存在しない。
多くのスケーターたちが残念がり閉鎖を惜しんだ。シャドウや実也、あの赤毛ですら泣いて感謝の言葉を残していった。愛之介の立場を理解しているチェリーやジョーは少ない言葉で労ってくれた。
だが愛之介、こと愛抱夢にとって、すでにクレイジーロックは思い出に浸る以外の存在価値を見出せない場所になっていた。政治家としての立場が強固になればなるほど、違法レース場を主催するリスクは無視できない。
何より、イヴを探す意味はすでになく、また、あそこで彼に会うことは、もう決してないのだから。
別れを切り出したのは、彼からだった。プロになって世界を飛び回る彼と物理的に会える時間は、少なくなっていた。
——「俺、ずっとあなたに守られてきたんだね。だから、ひとりでやっていこうと思っている」
爽やかな笑顔でそう伝えてきた。ひとり立ちの意思表示だったのだろう。この子は、保護されるべき頼りない子供ではなくなっていた。
もともと、どこにも辿り着くことの叶わぬ関係だった。法律の壁は厚く、老いぼれと蔑みようが保守政党の重鎮たちの権力は絶大だ。旧態依然とした価値観を短い時間で壊すことは、神道愛之介の能力を持ってしても不可能だった。
ならば自分のわがままで、この稀有な才能を縛るべきではない。彼を解放するタイミングは今なのだと心を決めた。
辛い決断だった。
彼がいなくなって、心に何かを抜き取られたような空洞ができたことが、わかった。それでも、いずれ時間が解決してくれる。新しい出会いが穴を埋めてくれる。そう自分自身に言い聞かせた。何の根拠もないのに。愚かだった。
そして、あれ以来一度も彼と直接会うことはなかった。お互い会おうという話を持ち出したこともない。
むしろふたりとも避けていたように思う。ここで会ってしまえば、自分は何をしでかすかわからない。何が起こるか予測不可能だったのだ。
それでも連絡だけは取り合った。ただの愛執でしかなかったのだろう。彼との繋がりを綺麗さっぱり断ち切ることなんて、できるはずなどなかった。女々しいと笑いたければ笑え。
近況報告だけの何気ないメッセージを交わす。それだけでも安心できた。
——「優勝おめでとう」
——「当選おめでとう」
——「負傷したんだって? お大事に。回復に時間がかかるようなら、良い医者を紹介するよ」
——「ありがとう。そのときは相談するね。あなたも、とても忙しそうだけど、体には気をつけて」
やがて、親族から身を固めろとの圧力が強くなってきた。そんなタイミングで彼女に出会う。すぐに意気投合した。思想の双子のように感じた。有能な弁護士だった彼女に政策秘書として自分をサポートして欲しいと熱烈にアプローチをかけた。
彼女に抱くのは、尊敬と信頼。
やがて、この女性とならば人生のパートナーとしてもうまくやっていけるだろうと思うようになった。
そしてプロポーズ。
伯母どもは神道家にふさわしい家柄の令嬢を、とヒステリックに、わめき散らした。老いた彼女らを丸め込むのはさほど難しくはなかった。
子供の知性は、父親ではなく母親からの遺伝として受け継がれることが、最近の研究結果でわかってきている。それほど僕のためと考え、おっしゃてくださるのでしたら、それなりの家柄で、かつ神道家にふさわしい頭脳を持った令嬢を紹介してください、とにこやかに跳ね除けた。
そんな優秀な令嬢がおいそれと見つけられるはずもなく、いたとしても頭脳明晰で自立して生きていけそうな女性が、神道家などという面倒臭い家に嫁ぐわけないだろう。時代錯誤も甚だしい。最終的に伯母どもは渋々認めざるを得なくなった。
自分には勿体ないと思える女性だった。彼女とならば、生涯に渡って良い関係を築いていけると信じていた。
——「ニュース見たよ。結婚おめでとう。お幸せに。結婚祝いに何か贈るね」
——「ありがとう。でもそんな気を遣わないで」
これでいい。心から彼女を愛していた。彼も彼にふさわしい人と出会い愛し合うのだろう。
やがて息子が生まれ父親としての喜びを知った。家族を愛している。それは偽らざる本心だった。
それなのに、彼を失ってできた空洞は空洞のままだった。どれだけ心が愛の泉で溢れようが、そこだけは空っぽのままだ。水で満たされることはなかった。
ひとりクレイジーロックに佇めば、彼の……雪の残香と青の痕跡を見つけようとしている自分がいる。
なんと情けなくも未練がましいのか。
クレイジーロックのゲートを開き、忠に、誰も入れるなと見張りを命じた。
ゲートが閉まり、背中に突き刺すような西日の熱を感じる。オレンジ色の夕日に照らし出されるダウンヒルコースを眺めやれば、遠い記憶が鮮明に蘇った。
過去、確かにここには、異様な熱気が渦巻いていた。
ビーフに挑もうとするスケーターのギラギラとした闘志、ギャラリーの熱狂、地鳴りのような歓声。
やがて人だかりの中、青い後ろ姿がスポットライトを浴びたように浮き上がる。振り向いた彼は、愛之介だけを見つめ、ふわっとした笑みを浮かべた。
——「滑ろう、愛抱夢。今日は負けない」
そうだね。滑ろうか。
そんな幻像を胸に、スタート地点へと向かう。ひとりぼっちのスタートを切るために。
閉鎖されたSでは、もうコースの整備は行われていない。どこに落石や強風で飛ばされただろう枝木などが、あるか知れない。けれど自分にはさほど大きな問題ではないだろう。
ぐいぐいとスピードは上がっていった。風を切って滑る。少しずつスケートの感覚が戻ってきた。
なんて爽快なのだろう。やはりスケートは素晴らしい。
ここに彼がいてくれれば。ふと、そんな思いが脳裏をよぎってしまった。苦い笑いが込み上げてくる。ないものねだりは虚しいだけだ。
そうだ。彼はいない。もういないのだ。諦めるんだ。
諦めろ。
諦めろ。
諦めろ。
それでも彼に会いたい。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
(ぼくは きみに あいたい)
と、そのとき、ひとりのスケーターが愛之介を凌駕するスピードで追い抜いていった。
まさか。あの滑りは彼か?
自分の願望が見せた幻覚か。確かめなければ。
その背中を見失うまいと、限界まで速度を上げていった。
ふと気づくと愛之介は白い光に包まれていた。意識が飲み込まれる。
(着いてこられる?)
向かい合って彼は微笑んだ。青い虹彩に虹が浮かぶ。たなびく水色の髪が、美しい虹色の光を帯び煌めいていた。
ああ、間違いなく彼だ。焦がれ続けた美しい青。この世にたったひとつの。
(もちろんだとも、ランガくん)
フルスロットルで加速し距離を縮めていった。
頭の隅で警告灯が点滅する。危険、と。
構うものか。無茶は承知だ。たとえ引き換えに失うものが、この命であったとしても惜しくはないさ。今の彼が幻影でしかなかったとしても、その結末に、僕は後悔なんてしない。
(会いたかったよ。愛抱夢)
懐かしい名で呼ばれた。
(僕もだ)
(もう一度、来たかったんだ。ふたりだけの、この世界に)
(それも同じだ。でも諦めていたんだ。嬉しいよ)
目頭が熱くなった。この幸せな幻想の中でなら死んでもいい。本気でそう願った。最後に、この奇跡をくれたクレイジーロックに感謝しよう。これで思い残すことは何もない。
(だめだよ、愛抱夢。そろそろ戻ろう。俺たちが生きていく、俗世へ)
スピードが緩やかに落ちていき、彼は背後に消えた。
白い空間は掻き消え、目の前に広がるのは薄暗い荒廃した景色だった。
整備されていないコースを滑るガタガタとしたウィール音が大きく鳴り響いている。その音に意識を引き戻された。
すでに夜の帳は降ろされ降り注ぐ満月の光が眩しかった。
呆然とする。戻ってきてしまったのか。望まなかったのに。
気が抜けたらしくバランスを崩した。そんな愛之介の腰を誰かが抱き支えたようだった。背中に密着した体温を感じ、手がぎゅっと握られる。妙にリアルだ。
「ゆっくり止まろう」
涼やかで明瞭な声が耳元に響く。首をひねれば微笑む彼がいた。
停止したふたりは、蹴り上げたボードを掴んで向かい合った。
「久しぶり」
彼は首を傾げニコッと笑った。
視線を下に移し脚を見る。指を伸ばし彼の頬に触れ、その温かさを確認した。
「本当にランガくん? 幽霊……じゃないよね」
「違うに決まっているだろ。何を言っているの?」
「あ、いや……どうしてここに来たの? そもそも僕以外入れるはずは……」そこで気づく。「忠か」
「うん。スネークが中に入れてくれたんだ。ツアーから沖縄へ戻って、久々に暦たちみんなと会った。ジョーやチェリーから、あなたの話を聞いているうちに直接会いたくなった。あなたの顔を見たい、一緒に滑りたいと、どうしても我慢できなくて。もしかして、ここに来たら会えるかなってなんとなく思ったんだ。そうしたらゲートにスネークがいて、愛抱夢が滑っているからって中に入れてくれた」
「もし会えていなかったら?」
「ん、会えなくても明日には、あなたの家へ直接行こうかと思っていたけどね。もちろんアポイントメントは入れるよ」
手を伸ばす。
「本当に君なのか確かめたい。抱きしめていいかな?」
「いいよ。疑り深いな」
ランガの肩を掴みグイッと胸に引き寄せた。そのまま腕の中に彼を閉じ込め、手のひらを背中から、腰、首へと骨格と筋肉を確認するように滑らせた。
納得した愛之介は、くすぐったそうに、もぞもぞとしているランガをきつく抱きしめた。
「愛抱夢?」
名を呼ぶ彼の声音が心地よく耳に響く。
水色の髪を撫で唇を落とした。彼の匂いがする。
生身の彼が愛之介の五感を満たしていった。間違いなくランガだ。
ランガの腕も愛之介の背中に回されシャツの布地を掴んだ。
夢ではない。過去に失ったはずの優しい温もりが、今ここにある。
うなじから手のひらを滑らせ後頭部を掴み、額、頬にキスをしてから唇を重ねた。抵抗はない。口づけは少しずつ深みを増していく。唇を割り舌を差し入れようとしたとき彼は身を捩り、愛之介の拘束から逃れようとした。
腕を突っぱね離れようとする彼の顔を覗き込んだ。
「嫌だった?」
ランガは首を横に振った。
「嫌じゃない。でも、こんなこと良くない。だってあなたには家族がいて……」
真剣な表情でランガは訴える。
ふっと口元に笑みが浮かぶ。
「君は、相変わらず真面目だね。少し説明させてくれないかな。僕の近況を話そう」
「わかった」
まず、このことから報告したほうがいいだろう。
「離婚することが決まっているんだ」
彼は驚いたように目を丸くした。しばし絶句したのち口を開いた。
「嘘……。あんなに素敵な女性なのに? あなたは『妻を愛している』って言っていた」
「それは嘘ではない。今でも愛しているよ。離婚を切り出したのは彼女からだった。別々の道を進んだほうがいいと言われたんだ。お互い尊敬し合える今の関係を大切にしたいのなら、とね。異存はなかった」
目を伏せ、そのときの会話を思い出していた。
——「愛之介、あなたを愛している。あなたも私を愛しているわね」
——「もちろんだとも」
——「だったら別の道を歩いて行かない?」
——「どういうこと?」
——「離婚しましょう」
確か、そんなあっさりとした、やりとりだった。どれだけ愛し合っていたとしても、満たされないものはある。お互いに触れることのできない心の聖域は確かに存在するのだ。
「子供はどうするの?」
「親権者は僕、監護権者は妻ということで落ち着いた。彼女が基本育てることになる。もともと東京の人だから離婚後は東京で子育てをする。その方が学校の選択肢も広い。何よりもうるさい親戚の干渉から自由でいられる」
このことが明らかになれば伯母どもは、子供をよこせと大騒ぎするだろうことが目に見えている。が、残念ながら相手が悪すぎる。彼女らの敵は法律の専門家だ。おそらく伯母たちの持病が悪化するだけだ。
見れば、ランガはなんともいえない表情をしている。
「あなたは、それでいいの?」
「週半分は僕も東京だからね。従来どおり父親と母親が協力して子育てすることは変わらない。子煩悩な神道愛之介は変わらずだよ。いずれ彼女には、僕の秘書に復帰してもらうことも考えている」
「よかった。……あの、まさか俺が関係している?」
「君のせいではないから、気に病む必要はないよ。僕が彼女を愛しているというのは嘘ではない。でもね、愛してはいたけど彼女に恋をすることは、なかったんだ。僕が恋をして、狂おしいほど求めてしまったのは、君だけだよ。この思いはどうやっても消せなかった。消そうと、もがけばもがくほど思いは募って行くんだ。そのことを彼女は知っている」
真剣な面持ちで話を聞いていた彼は、そっと目を伏せた。
「俺には何も言えない。夫婦のことは夫婦にしかわからないから。でも話をしてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。今度は僕の番だ。君のことを訊いていい?」
「いいよ」
「僕と別れたあと、噂で君にボーイフレンドができたことを知った」
「うん。正式に付き合った人は何人かいたよ。でも気づいてしまったんだ」
「何を?」
「俺さ、誰と付き合っていても、ずっとあなたを探しているんだ。それがわかってから、もう誰とも付き合わないと決めた。付き合えばその人を傷つけてしまうから。それでいいと思った。だって俺にはスケートがあるし、一生繋がっていられる、何があっても俺のところからいなくならないと信じられる親友もいる。でも、なんて言ったらいいのかな……」
ランガは胸に拳を当てる。そして青い瞳が言葉を見つけようとするかのように宙空を見つめた。
彼も、また僕を探してくれていたのか。
ランガの肩を掴み、しっかり視線を交わした。
「心にポッカリとした空洞があって、それをどうやっても埋められなかった……でいいかな?」
「そっか。うん、そんな感じ」
「僕と同じだね。もちろん幸せだったことは、嘘じゃない。子供が誕生したとき、嬉しくて天にも昇る心地だったさ。こんなにも自分と血がつながった息子が愛しいとは想像できなかった。君のお父さんは君に、こんな愛情を抱いていたんだなって、そのことを理解できたんだ」
そんな幸せの中にいて何が不満なのかと他人は言うだろう。不満だったわけではない。
(ただ、どうしようもなく、君がいなかった)
もう一度ランガの頭から足下まで、ゆっくりと視線でなぞっていった。
ここ数年で、少年っぽい危うさはすっかり影を潜め、逞しい青年へと変貌を遂げている。その美貌は大人びて、ますます磨きがかかっていた。
月明かりの中で煌めく青い虹彩。涼しげな目元。白く透き通った肌。風にそよぐ水色の髪。艶っぽさを増した桜色の唇。
その唇が動いた。
「白状すると、俺さ、あなたの結婚が決まったとき、泣いたんだ」
思わぬ告白に目を見開いた。彼は続ける。
「なんで泣いたのかはよくわからなかった。嬉しい気持ちと寂しい気持ちがごちゃごちゃで。もちろん嬉しかったのは本当だよ。あなたが幸せになれるんだって。けれど俺はもう一生あなたに会えない、会っちゃいけないんだって思ったら、涙が止まらなくなった」
「それなのに、君は会いに来てくれたんだね」
「うん。来ちゃった」と彼は肩をすくめ悪戯っぽく笑った。
「何を思って、僕に会って、どうするつもりだったの?」
「俺さ、久しぶりって笑って、一緒に滑って、じゃあ元気で、またね! って手を振る。それだけのつもりだったんだ。それで納得するはずだった」
再び彼を抱き寄せ、耳元で言った。
「それで納得されては僕が困る。さて近況報告が終わったところで、行こうか」
「行くって、どこへ?」
「別荘だよ。今夜はランガくんとふたりだけで過ごしたい」
「え?」
「言っておくけど、君の都合を聞く耳は滑っている途中で崖下に投げ捨ててきた。一晩、何がなんでも僕と一緒にいてもらう。その為には、どれほど姑息な工作でもやり遂げてみせよう。でないと、これが夢で君はいなかったのかもしれないと不安になる。朝まで一緒にいて、やっとこれは現実なんだと実感できると思うんだ。そうでないと君が消えてしまったらという恐怖心から、僕は死んでしまうかもしれない」
ランガは目を見開き何度か瞬きをすると、ぷっと吹いた。
「わかった。愛抱夢はそういった大袈裟なところ変わらないな」
楽しそうに笑う彼に、愛之介は微笑みを返した。
明日の予定をキャンセルしてくれた無礼者に、謝礼を贈呈したいくらいだ。ついでに一日帰宅を早めた自分へも拍手を贈りたい。
彼の手を取り、忠の待つゲートへ向かった。繋いだ手をぎゅっと握り締めれば、彼も強く握り返してくる。
二度とこの手を離してやるものか。
僕は、もう一生君を手放したりしない。ああ、絶対にしないとも。
だから覚悟してほしい。ランガくん。
——TILL DEATH US DO PART——
了